先週、僕はふとした思いつきで、ヒッチハイク旅をしていた。
「福島方面」「学生ヒッチハイク」と書かれたスケッチブックを持って、東京の神田駅付近を歩いていたときのこと。急に後ろから、僕に向けられた声が聞こえてきた。
「それ、オーシークルー?」
振り返ってみると、そこには腕にタトゥーを彫った、少し厳つめの男性が立っていた。
「え?」
「そのバッグって、オーシークルーのやつ?」
「あー、そうなんですね・・・・・・。そんなブランドだったかもしれないです。」
このとき僕は、その男性の身なりや喋り方、客引きが多い神田駅周辺だということから、その男性は新手の客引きだと思っていた。
ただ、僕はスケッチブックを見せびらかすように持って歩いていたので、「ひょっとすると、車に乗せてくれるのでは?」という淡い期待も同時に抱いていた。
(・・・・・・とりあえず、話聞いてみるか。)
「それね、うちの知り合いが作ってるんだ」
「え? ホントですか?」
訝しげにそう言いながらも、心当たりがないわけではなかった。
そのバッグは、仲良くさせてもらっている方が経営している、セレクトショップで購入したものだ。その店長が、バッグを紹介するときに「腕にタトゥーを入れている人が作っている」と言っていた・・・・・・そんな気がする。
もちろん、この人が作っているわけじゃないんだろうけど、類は友を呼ぶ。同じような人がその知り合いとして居ても、おかしくはないだろう。
「それ、どこで買ったの?大阪?」
「そうですね」
「僕、その店の店長知ってるよ?」
「えっ?」
「この間、うちのお店で髪切っていったよ」
そう言って、彼は後ろを指さした。そこには僕のイメージするそれとは少し違うが、紛れもなく美容院が存在していた。
そして、その男性の顔を、今更ながらに見て、全てに合点がいった。
あ・・・・・・、店長(バッグを買った店の)と全く同じ髪型、髭の生やし方だ。
「本当だ・・・・・・」
思わず嬉しくなった。たまたま買ったマイナーブランドのバッグを知っている人が居たから。そのバッグを売っていた店の店長と、今目の前にいる男性が偶然にも知り合いだったから。元々僕自身、東京(ましてや神田)に行くつもりはなかったから。
多分、僕が普通に店の前を歩いているだけじゃ、声をかけられなかったかもしれない。僕が明らかに大きな荷物とスケッチブックを持っていたから声をかけたのかもしれない。
いやいや、僕が本屋を探して道に迷ってなかったら、ほかのバッグで来ていたら、その男性が外に出てなければ・・・・・・
いろんなパラレルワールドが考えられるはずだ。何か一つでも違っていれば、全くの無関係だっただろう。ほんと、不思議な巡り合わせだ。
そのマイナーブランドのバッグに、妙な愛着を感じた出来事だった。
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